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進む携帯業界の共産化 止まらぬ総務省の暴走

      2016/06/05

日中は初夏の暑さが続く今日このごろ、読者のみなさまいかがお過ごしでしょうか。

多くの移り変わりを迎える携帯業界ですが、今後どのような季節を迎えることになるのでしょうか。

また、この記事は現状の携帯業界の現状を、総務省が公開している会議資料報道資料をもとに、執筆陣の独自の視点で分析していきます。

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新ガイドラインが施行されてから、キャッシュバックなどの割引が大幅に減り、MNPや機種変更を問わず携帯電話端末の購入がしにくい現状となりました。

総務省がガイドライン施行直後に、端末購入補助の適正化という事実上の行政指導口頭注意をした挙句、キャリア各社の好決算をうけ追加値下げの要求をしたという暴挙は記憶にあたらしいかと思います。

また、その一方で携帯の販売代理店が減益という結果になっています。

 

コトの発端はタスクフォース

2015年9月、安倍総理が「家計への負担が大きい」として始まったのが今回のタスクフォースでした。

スマートフォン向け料金プランが諸外国に比べ非常に高額であるという風説が横行し(実際は諸外国と同程度か割安)、高額な携帯料金に対する不満が高まっていたことも背景にあります。

ではなぜ、家計の負担軽減を目的に始まったタスクフォースが、事実上のキャッシュバックや割引の規制にのみ執心し、販売体制の抜本的改革に着手しなかったのでしょうか。

タスクフォースの「概要」と「構成員」からみてみていきましょう。

タスクフォースの概要

今回のタスクフォースにて構成員の1人 、株式会社野村総合研究所上席コンサルタント 北俊一氏は次のように述べています。

販売奨励金自体はどんな業界でもあるものですが、行き過ぎているところを是正して、その削減分を、データライトユーザー とか音声のライトユーザーに充当する、というようなことが自主的にできればいいと思います。

端末を2年に一度買い換えるユーザーにとってはパラダイスなわけですが、買い換えないユーザーにとってみれば、買い換える人たちの端末販売奨励金まで負担しているという不公平感につながる

http://www.soumu.go.jp/main_content/000383953.pdf

SIMオンリーのMVNOが今、大半を占めているのだと思うのですが、ユーザーアンケートを見たことはないのですが、
おそらくそのようなユーザーは、ITリテラシーの高い人だと思います。SIMカードだけを買って、中古端末を買って、挿して使う

やはりワンストップで、端末が壊れたときでも端末と回線を一体的に面倒見てほしいという人も安心してMVNO
http://www.soumu.go.jp/main_content/000383953.pdf

この中には、「販売奨励金」「MVNOの促進と携帯の中古市場」という、大きな2つのポイントがあります。

 

販売奨励金とは、契約が成立した時に「キャリア」から「代理店」に支払われるインセンティブのことです。

この販売奨励金が、一括0円やキャッシュバックといった各種割引の原資となっていました。

NRI北氏も指摘している通り、このようは販売奨励金制度は家電業界を中心として広く存在しています。皆さんもご存知の家電量販店のポイントは、奨励金を原資としています。

この奨励金は、もとを辿れば月々の携帯料金を原資としており、このことから過激な割引が存在するために携帯料金が高止まりしていると批判されていました。

 

では、「販売奨励金を減らせば携帯料金が安くなるか?」と聞かれれば、大手キャリアはきっぱり否定することでしょう。

なぜなら大手キャリアでは、通信基地局の整備や販売店における契約者のサポートに多くのコストがかかっているからです。

大手3キャリアの利用者はお客様センターに電話をしたり、キャリアショップに行けば、その人にあった契約プランや携帯電話機の操作方法を懇切丁寧に説明してもらうことができます。

万が一、携帯電話機の破損や故障などがあった際は、手厚いサポートがうけることができます。

 

MVNOでは、利用者自身で携帯電話機を用意し、自身でニーズにあった事業者を選んで契約する必要があります。

事業者によって大きく回線品質に差がありますし、電話機本体に関するサポートがあるMVNOはとても少ないです。

また、大手キャリアから回線を借り上げて、それを細切れにして利用者に割り振る形が多いので自社で基地局や通信網の整備をする必要もありません。もちろん、全国津々浦々にショップを持っているわけでもありません。

このように、MVNOはすでに整備されたMNOの回線を卸売りすることで、コストを削減し安価に提供することが可能となっています。

MVNOに大きな期待を寄せ、自由競争の原理で価格の適正化を望むタスクフォースですが、そう簡単な問題なのでしょうか。

 

タスクフォースが目を背ける中古端末の危険性

タスクフォースでNRI北氏が述べているように、「中古端末を買ってMVNO運用」という利用者は、テレビや雑誌で取り上げられるなど増加しつつあります。

これを普及させるために中古端末市場の発展が望まれると、タスクフォース取りまとめに謳われています。

しかし、これにはいくつかの大きな問題があります。

 

まず、中古端末そのものの危険性です。

現在日本の中古市場にある端末のほとんどがキャリアから発売された端末で、これらは大手キャリアを利用していた人が乗り換えや機種変更などで不要になった端末を売却したものです。

そのため、多くは型落ちの端末で、キャリアが提供するOSアップデートなどのサポートはほとんど終了しています。

最近になって、2年ほどのライフサイクルでOSアップデートに取り組むようになりましたが、キャリアが提供するサービスとの整合性からアップデートがされないなどの問題は解決されておらず、脆弱性の問題は以前残っています。

 

ここで問題となるのが、以前当サイトでも記事にしましたがスマートフォン向けランサムウェアの存在です。

当サイトで紹介したこのランサムウェアはAndroid4.Xの脆弱性を突いたものですが、これらの端末は発売からすでに2年半が経過し、キャリア発売機であればOSアップデートは絶望的でしょう。

つまり、タスクフォースで述べている「2年に1回端末を買い換えない人たち」というのは非常に厄介で危険極まりない存在となります。

国家としてセキュリティの問題に取り組むべき総務省が、このように明後日の方向を向いた議論を主導していることに、失望の念を禁じ得ません。

 

ごく一部に自分でOSの改造や修繕行為を行っている人もいますが、それは稀な例です。

 

また、中古端末では、キャリアが提供するような保証はない場合が大半です。

購入日から1年が経過してしまった端末はメーカー保証が受けれないため販売店保証のみとなってしまいます。

その販売店保証も、販売店によって「購入後1,2周間保証」「赤ロム保証のみ」などと様々です。

スマートフォンの修理費用は、そのスペックの進化から年々高額化しており、数万円かかることも珍しくありません。結果的にかかるコストは新品より多くなってしまうことも考えられるでしょう。

 

仮に、タスクフォースで述べられていた、端末と回線のサポートをしてくれるMVNOというものが実現したとしても、サポートのコストがかかるために、大手キャリアとあまり差異がない利用料金となるのであまり現実的ではありません。

もし、今回のタスクフォースで言われている中古端末が「中古市場にある未使用の白ロム機」のことを指しているのであれば、それらはいわゆるところの「MNP乞食」といわれる人たちによる転売によって供給されていたものなので、新規制によって供給は著しく減少するでしょう。

このように、中古端末を主軸としたMVNOの普及には多くの問題があり、タスクフォースの望む「ワンストップ」型MVNOとの親和性は残念ながら低いと言わざるを得ないでしょう。

タスクフォースの構成員どのような人たちだったのか

総務省公開の資料や議事録をみると、タスクフォースの7人の構成員のうち、5人の法律家と1人の女性団体局長、そして大手ITベンダー上席コンサルタントである北俊一氏でした。

NRIの北氏は「月間テレコミュニケーション」の特集にて、販売奨励金による「金品のバラマキ」に強く依存する携帯販売の実態を強く批判しており、販売奨励金を規制することで疲弊した販売現場が復活すると主張してきました。

NRI北氏を除いた構成員は、必ずしも携帯電話の専門家ではなく、消費者サイドにかなり寄ったタスクフォースであったと言えるでしょう。

総務省の保有する部外秘資料を用い議論が行われたといいますが、問題の本質である「通信契約と端末販売の統合」という点まで掘り下げた議論が行われたとは、残念ながら言い難いでしょう。

タスクフォースの取りまとめを受けたキャリアの対応

このタスクフォースの取りまとめを受け、大手キャリアは「カケホーダイライト」や「シェアパック5」など、通話やデータ通信のライトユーザーに見合ったプランを用意したり、2年契約後の更新月後に2年縛りが自動更新されない「新2年契約」といわれるプランが発表されました。

このような多様な選択肢が導入されたことは一定の評価ができますが、「シェアパック5」では月々の割引が減額になるなど、まだまだ不十分といえるでしょう。

また、2年縛りが自動更新されない契約とされる契約では料金差があるなど、結果として縛りのない契約をすることで割高な料金を払い続けることになってしまいます。

業界への再規制と共産主義化の道筋

今回のの結果が定着してしまうと、大多数を占める2年おきに端末を買い換えるユーザーでは、端末本体代金と月々の利用料金の全体的な値上げとなってしまうことになります。

ライトユーザーでも決して割安なプランを使えるわけでもなく、ヘビーユーザーも値上げになるなど「すべての人が不幸になる」という負の公平となってしまいます。

しかし、このタスクフォースは「家計への負担を減らすため」にとり行われたものなので、まったく意味のない結果となっています。

タスクフォースでもNRI北氏を中心に、自由化を進めていた業界に再度規制をかけることを懸念する意見が出されていました。

こうした流れは、安倍政権の基本方針である規制緩和と自由化による、競争原理による価格の最適化や業界の活性に反するものとなります。

また、タスクフォース取りまとめと前後して、キャリア3社が取り組み始めたパケット通信容量の付与競争に冷や水をかけるような規制を追加する動きがありました。

 

再規制や、値下げ指示といった事実上の価格統制、競争の中で生み出された新しい価値競争を潰す流れは、いわば共産主義的とさえとらえることができるでしょう。

残念ですが、高止まりする携帯料金への不満から、国民的支持を集めており、このような流れは止まることがないでしょう。

このような市場縮小への道筋の中、代理店では減益となっており、現場の店員の雇用を脅かしかねない事態となっています。

代理店各社では、キャリアの事業多角化を背景に一時的なものだとしていますが、このまま携帯販売台数減少が続けば、多くの店員が路頭に迷うことになり、NRI北氏の願望とはかけ離れた実態がやってくることになるでしょう。

 

 すべての人が不公平感がなく携帯料金の値下げをするためには

すべての人が不公平感がなくニーズに見合ったものを使用するためには、利用者自身が様々な情報を取得し内容を精査する必要があります。

リテラシーが高い人は工夫をした契約やサポートをカットしMVNOなどで安く運用し、そうでない人は大手携帯キャリアの手厚いサポートの中にいるべきです。

 

本当に携帯料金の家計負担軽減に必要なものは「利用者自身の情報リテラシー」ではないのでしょうか。

安いモノにはワケがある、という普遍的事実が消費者に突きつけられていくのではないでしょうか。

 - MVNO, 携帯料金値下げ

Comment

  1. Xency より:

    自分も携帯古事記なんでよくわかりますが、利用料金の公平化をするには「キャリアの端末販売の規制」をするしかありません。

    キャリアが端末を販売するから料金体系が複雑化するんです。

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